さっきまで機嫌よく遊んでいたのに、着替えを促した途端に泣き出す。床に寝転ぶ、大声を出す、ときには物を投げたり、たたこうとしたりする。イヤイヤ期の癇癪を前にすると、どう声をかければよいのか分からなくなることがあります。
米国小児科学会が運営する保護者向けサイト「HealthyChildren.org」では、癇癪はとくに1〜3歳ごろに見られやすい、発達の過程の一つと説明されています。この時期の子どもは「自分で決めたい」という気持ちが育つ一方で、思いどおりにならない悔しさや怒りを、まだ十分に言葉で伝えたり、自分で落ち着かせたりできません。
癇癪を一度で止める魔法の言葉はありません。まず必要なのは、正しさを教えることよりも、安全を守り、親子が落ち着きを取り戻せる状態に近づけることです。
最初に、危険なものから離す

道路へ飛び出しそう、家具に頭をぶつけそう、物を投げる、たたく・蹴る・かむといった行動がある場合は、安全の確保を優先します。割れ物や硬いものを遠ざけ、必要であれば人の少ない場所へ移動します。
「たたかないよ」「ここにいようね」など、伝える言葉は短くします。危険な行動は止めますが、泣いていることや怒っていることまで否定する必要はありません。「泣かないの」「そんなことで怒らないの」と感情を止めようとするより、まず安全に感情の波が小さくなるのを待ちます。
癇癪の最中は、説明しすぎない
気持ちが大きく高ぶっているときは、長い説明を聞いたり、理由を考えたりする余裕がありません。「どうしてそんなことをするの?」「さっき約束したでしょう」と話を重ねても、さらに刺激になってしまう場合があります。
「まだ遊びたかったね」「帰りたくなかったね」と、見えている気持ちを短く言葉にします。抱っこを求める子には応じ、触れられることを嫌がる子には少し距離を取るなど、その子が落ち着きやすい方法を探します。目を合わせることが負担になっているようなら、無理に正面から話さなくてもかまいません。
要求を通すことと、気持ちを受け止めることは別
気持ちを受け止めると、子どもの要求をすべて認めることになるのでは、と迷うこともあります。しかし、「もっと動画を見たかったね」と理解を示すことと、視聴時間を延長することは別です。
決めたことを変えない場合も、「見たかったね。今日はおしまいだよ」と短く伝えます。大人の返事が何度も変わると、子どもはどこまでがルールなのか分かりにくくなります。ただし、親が疲れ切っている日まで完璧な一貫性を求める必要はありません。安全を守れたら、まずはそれで十分です。
親が怒りそうなときは、少し止まる
泣き声が続くと、大人の気持ちも揺れます。怒鳴りそうになったら、子どもの安全を確認したうえで、一歩離れて深呼吸する、水を飲む、交代できる人に頼むなど、数十秒でも間をつくります。
親が落ち着けないことは、愛情が足りないという意味ではありません。米国小児科学会の情報でも、大人の苛立ちが強くなったときは、家族や友人と交代して休むことが勧められています。余裕を取り戻すことも、安全を守るための対応の一つです。
落ち着いたあとに、短くやり直す
泣き止んだ直後に反省や謝罪を求めるより、まず「落ち着いたね」「お水を飲もうか」と日常へ戻る手助けをします。そのあと、必要があれば「投げたおもちゃを一緒に戻そう」「次は『手伝って』と言ってみよう」と、できる行動を一つだけ伝えます。
小さな子どもにとって、感情を言葉で表すことは練習の途中です。「悲しかった」「自分でやりたかった」「もう一回したかった」など、大人が代わりの言葉を少しずつ示すことが、次の場面で使える表現を増やします。
癇癪が起きやすい条件を見つける
癇癪は、空腹、眠気、疲れ、暑さ、予定の変更などが重なると起きやすくなることがあります。数日だけでも、起きた時間と直前の出来事を簡単に記録すると、傾向が見つかるかもしれません。
昼食を少し早める、外出予定を詰めすぎない、「あと一回でおしまい」と予告する、「赤と青、どちらを着る?」と小さな選択肢を示す。すべての癇癪は防げなくても、見通しと選べる感覚があることで、切り替えやすくなる子もいます。
困ったときは、相談してよい
癇癪の現れ方には大きな個人差があります。激しい行動で本人や周囲が頻繁にけがをする、長時間おさまらない状態が繰り返される、生活や園での活動に強い影響がある、言葉や発達についても心配がある場合は、小児科、自治体の保健センター、乳幼児健診、子育て支援窓口などに相談してください。
相談することは、育て方が間違っているという意味ではありません。家庭だけでは気づきにくい子どもの特徴や、負担を減らす方法を一緒に探す機会になります。
イヤイヤ期の癇癪が始まったら、まず安全を守る。言葉を減らす。感情の波が小さくなるのを待つ。落ち着いたあとで、次にできることを一つ伝える。毎回うまく対応できなくても、この順番を思い出せれば十分です。
参考情報
・HealthyChildren.org(American Academy of Pediatrics)「Top Tips for Surviving Tantrums」 https://www.healthychildren.org/english/family-life/family-dynamics/communication-discipline/pages/temper-tantrums.aspx
・HealthyChildren.org(American Academy of Pediatrics)「Emotional Development: 2 Year Olds」 https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/toddler/Pages/emotional-development-2-year-olds.aspx
・こども家庭庁「令和4年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業」 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/cd892ed4-1ec9-4b60-aa2c-ec45d3967729/ebd270e3/20231023_policies_kosodateshien_chousa_suishinchosa_r04-01_h20.pdf